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北の随草録〈2〉〜エゾエンゴサク

待ち侘びていた春の訪れに草木の芽が一斉に緩みます。


スプリング・エフェメラル(春のはかないもの=春の妖精)と呼ばれる植物たちは、木々がまだ葉を広げないうちに、柔らかい陽光を受けていち早く花を咲かせます。



エゾエンゴサクはその一種であり、属名のCorydalis(コリダリス)はヒバリを意味する言葉から由来しているといわれますが、花の形がヒバリの蹴爪(けづめ)に似ており、また鳥の歌う姿をも連想させます。細長い花の奥には蜜が蓄えられていて、それを求めて訪れたハチに雌しべと雄しべが触れて受粉を媒介してもらう構造になっています。結ばれた種は、エライオソームという誘因物質を備えていて、それを好物とするアリによって巣穴まで運ばれ、拡散していきます。そして、森が広葉に覆われる夏頃には一連の営みを終えて、次の春を迎えるまで地中で過ごすのです。


生薬の延胡索(えんごさく)は、気血を巡らし、諸々の痛みに効用があるとされます。原料には中国種のエンゴサクの塊茎が用いられますが、エゾエンゴサクの塊茎も和延胡索(わのえんごさく)としてその代用となります。東洋医学には「不通則痛(通じざればすなわち痛む)」という言葉があり、痛みは流れが滞っていることから起こると考えられてきました。


エゾエンゴサクの花言葉は、“妖精たちの秘密の舞踏会”。

草木の陰を覗のぞけば、ひっそりと精妙な世界が広がっています。





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